夜明けから歩き始める

夜明けから歩き始める

僕が生まれ育った街には太宰治と森鴎外の墓がある。 
しかも背中合わせにあるらしい。
太宰治の命日には大勢のファンがやって来て、森鴎外の墓を踏みつけるかのごとく墓参りをするらしい。
そんな話を僕は中学校時代に教師から聞いた。
ただ、その真偽は定かではない。

とにもかくにも僕はそんな街で生まれ育ったけれど、二人の作品をたいして読んではいない。
東京に生まれ育った人ほど東京タワーに行かないという話に近いかも知れない。

近隣の市は近年めまぐるしい発展を遂げているのに対し、この街の発展は緩やかでどこかパッとしない。
それでいて総武線と東西線の始発駅であり、何故か中央線の特急が停まる駅でもある。
それが僕のこの街自慢のひとつだけれど、使い古した刀のような感じも否めない。

けれど僕はこの街が好きだ。

私のどこが好き?なんて聞かれると困っちゃうけれど、とにかく好きだ。

だからずっとこの街で暮らしてきた。いろいろな思い出も、この街と共にある。

今年、駅を南北にまたぐ跨線橋が取り壊される。
太宰治も愛した橋だったらしい。
小学生の時。跨線橋に捨てられたタバコの吸い殻を、真下を通り抜ける電車の屋根に落としては、電車の屋根を転がるタバコを見て仲間とゲラゲラ笑った。
中学生の時。孤独を感じながら、夜の闇の中を駆け抜ける電車を眺めた。
高校時代、浪人時代、大学時代、そして大人になってからも、辛いことがあると必ず訪れる場所だった。

そして跨線橋が取り壊されるのと時を同じくして、僕は長らく勤めた会社に退職届を出した。

跨線橋の取り壊しと僕の退職は何の因果関係もない。

僕の想いを一方的に重ね合わせているだけだ。

残りの人生。

信じられる仲間と、胸を張って誇れる仕事をしたい。

立ち上げた会社はALBAと名付けた。

ALBAとは夜明けを意味する。
夜明けから、僕らは歩き始める。

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