僕は乙女座A型である。
だから何だ?そのことが僕の性格に大きな影響を与えているとも思わない。
乙女座A型の人間なんて世の中にわんさかといて、その全ての人間が同じ性格だったら逆に怖い。
だから僕は普段は何も気にしない。何もなければ。
今日は夕方からの映画に向けて早めに家を出た。
小田急バスに乗り込んで、空いている車内の一番前、運転手さんのすぐ後ろの席に腰を下ろした。
小さなカバンから読みかけの本を取り出そうとした瞬間、シュッという音と嫌な感触。
表紙の右側が縦に3センチほど裂けてしまった。ほんのちょっとだけ凹んだ。
バスが駅に着き、時間を潰した。別に買いたいものがある訳でもないし、そんな時には大抵書店に行く。安堂ホセの新刊に目が止まり、少し悩んだ末に買うことを決めた。レジに行くと愛想の良い店員さんが丁寧に接客をしてくれる。気持ち良い接客だ。「カバーをお願いします。」と伝えると、丁度良い感じの笑顔で頷き、カバーをかけてくれる。手際が良い。だけど、控えめに言ってもとても雑な仕事で、カバーは見事にズレている。精一杯悟られないように本を受け取りレジを離れたが、ほんのちょっとだけ凹んだ。
映画までまだ1時間近くある。喫茶店に入り時間を潰すことにした。喫煙が可能な喫茶店で、過去に何度か入ったがいつも繁盛している。レジには大学生くらいであろう二人の女性店員さん。決して歓迎されてはいないトーンで左側の店員さんに「ご注文は?」と聞かれ、僕は感じが良すぎも悪すぎもしないトーンでブレンドコーヒーを注文した。千円札を丁寧に置き、お釣りを用意する店員さんの動きに合わせ、なるべく自然で柔らかな動作を意識して左手を出す。引っ掻かれたら重症を負いそうなほど装飾された爪に目が行くが、女性店員さんは器用にお釣りをつかむと僕の左手へと右手を動かす。手のひらの上3センチほどまで来た途端、落下して音を立てる釣り銭。何も気にしていない様子を決め込み右側の店員さんからコーヒーを受け取ったが、ほんのちょっとだけ凹んだ。
こんな時、僕は乙女座A型だから凹むのだろうか?という思考に引き摺り込まれる。いやいやダメだ。人生において考えることは山ほどある。そうそう、コーヒーも飲み終えたし、良い頃合いだ。気を取り直して映画に向かうとしよう。
乙女座A型なんて、世の中に何人もいるんだからと言い聞かせて喫茶店を出る。
by ISTP

