針にマニュキュアのような液体を一筆優しく塗る。ドーナツ盤と呼ばれるものには中央の丸い穴にアダプタをセット。円盤を丁寧にゆっくりと取り出す。自分だけなのか?レコード特有の独特な匂いを毎回感じる。慎重かつ静かにレコード盤の上に針を落とす。間もなくプツプツという音、そんなひと手間がなお一層に聴覚を心地よく刺激する。
ある晩、普段手荷物少ない親父が楽器屋の茶色の紙袋を手に笑顔で帰宅した。「なに、なに?」となんだかワクワクしながら紙袋の中を覗き込んでみた。「レコード?」。LP盤(いわゆるアルバム)の三枚全て、ジャズトランペッターの外国人がアートワークのもので「なーんだ」と思ったところにもう一枚、シングルの小さな『泳げたいやきくん!・唄 子門真人』が隠れるように入っていた。とりあえず、それを自分のためにプレーヤーにセットして流してくれた。当時、その唄が大流行、テレビや近所のたいやき屋で流れていて、耳から離れない音源ではあったが特別に欲しかった訳でなかったと思う。それでも。親父の気遣いがちょっと嬉しかったような気はする。
その夜、親父はお酒を嗜みながら相当の時間、レコードの音色に浸っていたように見えた。
今は指をちょこっとタッチするだけで曲が流れるし次の曲へ飛ばすことも速攻で出来る。レコードやCDを買わなくても音楽は楽しめる。
ただ少し懐かしくなっただけ。
お店であれこれ手に取ってみて選んで、家に帰って半月切りみたいなビニールからそっとレコードを取り出して、アルバムを楽しむ。お気に入りのレコードが棚に並んで増えていくことにウシャシャ・・・みたいな。
LPレコード片面を聴くと大体30分くらいで。その時間で宿題をやるぞ!とあえて時計を見ないで意気込んでみたり、一枚のアルバムストーリーを音調や歌詞からじっくりと考えてみたり、円盤をくるくると回す楽しみと客観的な何かと自分、といった三角形の指揮のような。きっとそんな感じ。
今思えば、傷だらけになるまでに聴いたあの一枚。楽しく歌っていた『泳げたいやきくん!』は音楽的には短調でマイナーコード、歌詞としては悲劇的な結末、胸がギュッて詰まるものがあるでないか。一方、裏であるB面の『一本でもにんじん・唄 なぎら健壱』は陽気な音調とこれまた愉快な歌詞となっている(笑)。
『ひらけポンキッキ!』のコンセプトは一体なんだったのだろうか?
by ジャー・ジャー

