大学時代。
僕に自分の夢を熱く語る友人。
「俺は将来、必ず映画監督になる。」
彼は僕にそう言った。力強い口調で。
続いて彼は僕の夢を聞いてきた。
アルコールの力もあったからか、目に強い光を宿して。
その当時の僕は教育実習を終え、自分が教師には向かないことを痛感していた頃。
正直、夢など考えてもいない。
咄嗟に出た言葉は「一作品くらい小説を書いてみたいな。」だった。軽い口調で。
口は災いの元。適当に言葉なんか発さない方が良い。
「絶対に書けるよ!お互い頑張ろう!」
彼から差し出される手。
僕も手を差し出すと、強い力でその手を握られた。
熱い男…。口は災いの元。
共に大学を卒業し、それから彼と会う回数は極端に減った。
彼は律儀に年賀状を毎年くれて、僕も慌てて返す。
彼は制作会社に勤務し、キャリアを積んでいっている様子。
日曜朝の民放の30分番組を手がけることになった旨も記されていた年があった。
番組最後のテロップに流れる彼の名前。誇らしかった。
熱く、夢に向かって進む彼の姿が浮かんだ。
卒業をしてからすでに四半世紀の時が流れた。
彼は今でも年賀状をくれるが、最近は近況が書かれていない。
変わらず夢を追い続けているだろうか。
僕はというと、未だ一編の小説も書いていない。
時々、彼になんか申し訳ない気持ちになる。
口は災いの元。
先日、バスの中でぼんやりしていたら、ある広告が目に飛び込んできた。
―「第20回 深大寺恋物語」 深大寺恋物語は今年で最後です。―
聞いたこともなかった文学賞。その最後の年らしい。
次の瞬間、僕の中に彼と交わしたあの日が浮かんだ。
そして、何となくだけど、書かなきゃならないような気持ちになった。
僕は今なお、彼に伝えた夢を叶えようとさえしていないのだ。
気持ちが変わらぬうちに仕事仲間に伝えた。応募してみようと。
仲間は揃って「恋?恋物語?」「恋なんて書けるの?」と口々に言う。
僕と恋はよほどイメージが重ならないらしい。
口は災いの元。歴史は繰り返す。
深大寺周辺の地域を織り込んだ短編恋愛小説。締め切りは7月末。
書いてみようと思う。
ところで、恋ってなんだっけ?
by ISTP

